自分自身の脂肪組織を採取し、脂肪組織から分離、濃縮洗浄して得られる間質血管細胞群(Stromal Vascular Fraction:以下、SVFという)を膝の関節腔に注入することによって、患部の痛みの軽減など、変形性膝関節症の症状を改善することを目的とします。
本治療では、下腹部、背部、臀部または大腿部を、局所麻酔の下で小さく切開し(約3~5mm、目立たない部位を選びます)、皮下の脂肪組織を吸引して採取します。採取した脂肪組織は細胞濃縮洗浄システム装置で酵素処理をおこないSVFに加工し、膝の関節腔に注射投与します。
本治療では、ご自身の脂肪組織を酵素処理することによって得られるSVFという細胞群を使用します。SVF中には幹細胞と呼ばれる細胞の他、血管内皮細胞等が含まれており、これらの細胞や細胞が分泌するサイトカインが作用して炎症を抑え軟骨組織を修復することにより痛みを軽減し、症状の悪化を防ぐ効果が期待できます。
非培養の脂肪由来SVFでは培養の場合と異なり、日帰りで脂肪採取から患部への注入が可能です。反面、より多くの脂肪吸引が必要なため、下腹部の大部分など広い範囲からの脂肪採取が必要で、採取したところは軽度の痛みが数日間つづくことがあります。
脂肪組織は、局所麻酔の下、下腹部、背部、臀部または大腿部を約3~5mm切開し、そこから細い金属の管(カニューレ)を挿入し、必要量の脂肪組織(約40~100mL)を吸引採取します。
切開部は自然に溶ける糸で皮下縫合し終了します。抜糸の必要はありません。
脂肪組織を採取した部位は皮下出血斑と腫れを生じますので、局所の安静保持と圧迫を行います。術後の痛みには、鎮痛薬を処方します。
脂肪組織を採取後、当診療所内で、細胞濃縮洗浄システム装置を用いて脂肪組織からSVFへの加工を行います。加工時間は120分程度です。この間、必要に応じて休憩していただきますが元気ならば自由行動を許可します。
SVFが加工でき次第、患部である膝の関節腔に注射を行います。注射後は15分程度、そのままの体位で安静にしていただきます。
充分な休息を取った後、帰宅可能であると医師が判断した上で帰宅していただきます。
SVFを注射した部位は、絆創膏、ガーゼなどにて1日程度被覆保護し、過ごしていただきます。なお、治療当日は可能な限り飲酒をお控えください。
本治療を受けることによる危険としては、脂肪組織の採取部位に腫れや痛みを生じる事がありますが1~2週間で軽快します。また皮下出血により皮膚が紫色~黄色に見えることがありますが、自然に吸収されて2~3週間くらいで正常な皮膚の色に戻ります。また、脂肪組織を採取した部分の皮膚表面に凹凸が出ることがありますが、マッサージをすることで平らになってきます。
その他、関節腔内への投与に伴い、注射部位の腫れや痛みなどの軽微な事象が報告されていますが、いずれも治癒しており、処置が必要であったり、後遺症が残る可能性があったりするような重大な副作用や健康被害は報告されていません。
本治療を受けた日から1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後に定期的に通院して頂き、一般的な問診と来院時までに患者様が何らかの病気になった(なっていた)かについて確認します。また、必要に応じてMRI等の検査を行う場合があります。
脂肪由来幹細胞を用いた治療には、幹細胞を培養するもの(ASC)と、培養しないもの(SVF)があります。現時点ではどちらが優れているかに関して明確な結論は出ていません。当院では両者で治療を行なっています。
メリット | デメリット | |
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培養しない幹細胞(SVF) | 幹細胞以外の細胞も含まれており、多彩な成長因子の複合的な効果を受けられる。 | 投与できる幹細胞の量が少ない、または調節することが難しい。 |
培養幹細胞(ASC) | 投与する幹細胞の量を調整できる。脂肪の採取量が少ないので低負担。 | 幹細胞の最適な量についてコンセンサスが得られていない(多いことが弊害になるケースもあり)。 |
Clinical Safety and Effectiveness of Adipose-Derived Stromal Cell vs Stromal Vascular Fraction Injection for Treatment of Knee Osteoarthritis
2-Year Results of Parallel Single-Arm Trials
Naomasa Yokota, et al.
The American Journal of Sports medicine, 2022
変形性膝関節症の治療のための脂肪幹細胞注射vs.間質血管細胞群注射の臨床的安全性と有効性
平行単群試験の2年間フォローアップ